モロッコには年間1,000万人以上の観光客が訪れ、そのほとんどは無事に旅を終えます。この事実は、よく「危険だ」という話題を見た後で質問されるため明確にしておきます。率直にいえば、モロッコのリスクは観光業が発展した中所得国に共通する傾向があり、賑やかな場所での軽犯罪、いくつかの詐欺、注意不足な運転、そしてごく稀な重大事件がある程度です。
このガイドは、特に詳細な情報を公開しているイギリスとオーストラリア政府のアドバイスをもとにまとめています。滞在前には必ずご自身の国の勧告もご確認ください。本ガイドは法的または医療上の助言を目的とするものではありません。
公式のアドバイスが実際に伝えていること
イギリス外務省は、モロッコではテロが計画される可能性が高く、無差別に発生する可能性や、交通機関、観光地、政府系施設、人が多い場所、西側諸国に関わる商業施設が標的となるおそれがあるとしています。特にダーイシュ(IS)に共感または関係するモロッコ人による脅威の増加も指摘され、捜査当局は定期的にテロ細胞の摘発を行っているとしています。
オーストラリア政府(Smartraveller)はさらに踏み込み、モロッコ全体でテロ脅威による高い警戒を呼びかけています。地域によってはより高いリスクがあり、西サハラの軍事境界(バーム)から30km以内への立ち入りを全面的に禁止しています。
いずれの政府も「渡航を控える」ようには求めていませんが、「現地ニュースへの注意」と「当局の指示に従うこと」を繰り返し強調しています。
犯罪:実際に遭うリスク
旅行者が最も遭遇しやすいのは軽犯罪です。イギリスのアドバイスでは、メディナ(旧市街)やビーチで多発するスリ、カバンのひったくり、バイクによるアクセサリーやバッグの強奪が挙げられています。また、時折発生する暴力犯罪として、刃物による襲撃や主要都市やビーチでの強盗・窃盗・住居侵入があり、夜間の人気のない場所や多額の現金・貴重品の持ち歩きは避けるべきとしています。
オーストラリア政府は、夜の徒歩移動時の恐喝や攻撃的な物乞い、特にATM周辺でのハラスメント、さらに女性旅行者へのセクシュアルハラスメントを追加で指摘しています。これは旅行者の体験からも納得できる内容で、大都市の混雑するエリアでは疲れることもありますが、通常の注意を払えば防げることが多いです。
高価な時計は持ち歩かず、携帯電話は歩道の端で手に持たず、パスポートはセーフティボックスに保管し、現金は分散するのがおすすめです。
詐欺、タクシー、偽ガイド
クレジットカードの不正利用や詐欺には注意してください。よくある手口は、購入したものと違う品物が渡される、クレジットカードの二重請求、「親切な人」に案内されて高額商品を買わされる、または「今日は休み」と嘘をつき別の観光を薦められるなどです。
イギリスのアドバイスでも、偽のガイドが観光客につきまといハラスメントをするケースが多いとされています。公認ガイドを利用する際は、バッジや許可証の確認をしてください。またタクシーについては、アプリ配車車両が非公認・無保険のこともあるため、乗車前の運賃交渉かメーター利用が指示されています。
これらは危険というより金銭的損失の問題ですが、「大変だった」という感想の多くはここからきています。
テロ対策、正しく捉えるために
脅威は現実にありますが、確率は高くありません。モロッコでは過去にテロ事件も起きていますが、治安当局は予防に力を入れており、2018年12月にはイムリル近郊の登山道で北欧出身の2人の女性旅行者が殺害される事件も発生しました(テロと認定)。
対策としては他国同様、象徴的な場所を避け、現地のニュースを確認し、リスクを過剰に恐れないことです。両政府とも「山岳地域の単独行動」が特にリスクとされており、その理由は犯罪だけでなく、怪我や天候・道迷いも含まれます。
行かない方がよいエリア
避けるべき地域は2箇所あり、いずれも一般的な観光ルートから離れています。
アルジェリアとの国境(陸・海)は閉鎖・厳重警備されており、無許可での越境は違法です。海上ではジェットスキーや小型ボートで誤って越境するケースもあるため、位置の把握や十分な燃料準備が重要です。
もう一つは西サハラ地域の軍事境界(バーム)。オーストラリア政府は、その北側・西側30km以内と南側・東側全域への移動を禁止し、イギリス政府も西サハラを「領有未確定地域」として特別扱いしています。旅行会社主催のダフラ観光等は別ですが、場所を把握しておくのがおすすめです。
観光客が巻き込まれやすい法律
観光客がトラブルになる多くは、悪意でなくルールの未把握が原因です。
イスラム教徒を他宗教へ改宗させること、布教資料の配布は違法で、場合によっては高額罰金や最長3年の懲役になります。イスラム教への公的批判(ネット上も含む)には重い罰金または最長2年の懲役。同性愛行為は違法で、公的な愛情表現も起訴される可能性あり。独身での性行為も違法ですが、外国人旅行者の場合は観光地のホテル宿泊では実際ほとんど問題とされませんが、特に宗教施設近くでの愛情表現は控えてください。
アルコールは許可を受けた店でのみ販売され、それ以外での飲酒は違法です(路上飲酒も摘発対象)。薬物は厳罰で、イギリスの情報では所持・利用・持ち運びすべてに重い刑罰が科され、他人の荷物の持ち運びにも警告が出ています。軍事施設・政治施設の撮影は違法、人物を撮影する場合も必ず許可を得てください。児童の撮影やポルノは禁止。ドローン利用は事前に航空庁の許可が必要です。
オーストラリア政府はさらに、重大犯罪には死刑があり、二重国籍者の場合はモロッコ国籍として扱われる点を注意喚起しています。
健康・水・注意が必要な飲み物
水や食事は日常的なリスクです。水や食事に由来する感染症が報告されており、ミネラルウォーターや煮沸した水の利用、サラダや氷への注意がすすめられます。サシチョウバエによるリーシュマニアや発疹チフスなどの虫媒介疾患もあり、虫除けや網戸の利用をおすすめします。動物は狂犬病のリスクもあるので接触せず、噛まれた場合は至急医療機関を受診してください。ブラックヘナは皮膚炎を引き起こすこともあります。
特に注意すべきはメタノール混入アルコールです。イギリス政府の情報では、メタノール入りの酒による死亡や重症例が報告され、味や匂いでは判別できません。もし飲酒後に症状が出たら、すぐに医師の診察を受けてください。必ず認可された店やバーでアルコールを購入するのが実践的な予防法です。
地震・洪水・海や川での遊泳
モロッコは地震の多い国です。2023年9月8日に発生したマグニチュード6.9の地震は、アル・ハウズ県で2,960人が死亡、5,674人が負傷し、観測史上最大規模でした。山間部の村ではいまも復旧作業が続いており、外務省からは地震時の対処法やホテルでの避難案内を事前に確認するよう呼びかけられています。
冬季の山間部や河川付近では集中豪雨による鉄砲水に注意し、夏は山火事のリスクもあります。多くのビーチは監視員不在もしくは警告表示がないため、流れや高波での事故が起こっています。また、ダムや川では泥や急な水深変化が危険で遊泳は控えてください。
一人旅、特に女性の単独旅行
モロッコでは一人旅も多く、事前に対応を決めておけば快適に旅行できます。両政府とも、女性の一人旅ではしつこい声かけやハラスメントに注意を促しており、体のラインを隠すゆったりした服装がおすすめです。
たとえば、夜は人気の少ない路地を避けて明るい道を歩く、タクシーは後部座席に座る、会話はできるだけ短く人前で行う、プライベートな案内や飲み物の誘いには応じない、ストーカー被害時は論争せず店やカフェなど人のいる場所へ避難しましょう。山間部での単独登山は避けてください。
オンライン環境とその重要性
現地では携帯電話が安全面でも役立ちます。道迷いを防ぐ地図、公式配車アプリ、宿や家族への連絡など、どの都市でも頼りになります。警察への連絡は190、救急車は15と、緊急時も連絡手段を確保してください。
SIMカードの調達方法は主に3つ。自分の電話会社のローミング利用、市内での現地SIM購入(登録が必要)、出発前にeSIMをインストールです。どれを選んでも、スマホは人目につかないよう管理し、緊急連絡先をメモしておくと安心です。
現地の基本的な注意点は、事前情報の確認、アクティビティに応じた保険加入、貴重品の分散と地味な管理、価格交渉、飲料水や氷、酒類の購入場所の注意です。そうすれば、最も出くわしやすいトラブルは「メーターを使わないタクシー運転手」のくらいで済み、十分対応できます。