アブシンベル神殿は、ナセル湖畔の岸壁に刻まれた2つの神殿で、アスワンから数時間南、スーダン国境も近い場所にあります。エジプトで写真だけでは伝わらない数少ない遺跡であり、ラメセス2世の座像4体が湖の東側を見下ろしています。座像は台座から冠まで20メートルの高さがあり、その上には太陽の昇りを迎える22体のヒヒ像のレリーフが並んでいます。その隣、約100メートル離れた場所には、小さな神殿があり、王と王妃の像が同じ高さで刻まれています。エジプト美術の常識から見てもこれは極めて特異です。
遺跡は北回帰線のすぐ南、湖西岸に位置し、アスワンから直線で約230キロ、道路距離では300キロほど離れています。通過地点ではなく、アブシンベル神殿の観光は「どうやって行き、どれくらい時間をかけるか」が実務的なポイントです。
- 1体ごとの座像の高さ
- 20 m
- ファサードの高さ
- 33 m
- 救済時のブロック数
- 1,036
- アスワンから(航空路)
- 230 km
ひとつの崖に2つの神殿
大神殿はアメン神、ラー・ホルアクティ神、プタハ神、そして神格化されたラメセス2世自身を祀っており、これはラメセス2世らしい特徴です。建設は紀元前1264年頃に始まり、約20年をかけて完成しました。ファサードは高さ33メートル・幅38メートルで、4体のコロッサスが並びます。左から2番目の像は地震で完成後間もなく頭部と胴体を失い、移設時も台座の前にそのまま配置されており、接着修復はされていません。
内部構造は伝統的なエジプト神殿と同様に奥へ進むほど部屋が小さくなり、側室も多い作りです。柱廊(ヒポスタイルホール)は奥行18メートル・幅16.7メートル、王のオシリス像をかたどった8本の柱が支えています。壁にはラメセス2世が戦車で敵兵へ矢を放つカデシュの戦いの浮彫が描かれています。
小神殿は女神ハトホルと王妃ネフェルタリを祀っており、王妃に捧げられた神殿は古代エジプト史で2例目。像の高さは10メートル余りで、王と妃が同じ大きさで並んでいます。他の神殿では王妃像は常に王の膝下に描かれるため、極めて珍しい構造です。

朝日が届く日
大神殿の軸線は、年に2度、昇る太陽が一直線に通路を63メートル進み、奥の神域の壁に並ぶ4体中3体の像(ラー・ホルアクティ神、神格化されたラメセス2世、アメン神)を照らすように設計されています。4体目のプタハ神(冥界の神)だけは常に闇の中です。これは神学的な意味も、演出的な意図も込められていて、両方と考えられます。
この現象が起きるのが10月22日と2月22日で、毎年この日を目処にアスワンのホテル予約は1年前から始まります。一般的には国王の誕生日と即位日と説明されますが、その旨の記録は残っていません。確かなのは、この効果を維持するため移設後も神殿軸を再調整し、1966年2月22日の日の出に現地で再現されたことです。地球の歳差運動により建設当時から日付はずれてきましたし、移設によっても修正されていますが、現行の軸合わせはオリジナルに近い再現となっています。
移設の流れ(時系列)
1959
計画ではなく国際キャンペーン
アスワン・ハイダム建設で最大60メートルの水没危険が生じ、砂岩が水に弱いため、UNESCOがヌビア遺跡救済国際キャンペーンを開始し、世界に保存案の提案を呼びかけました。
1962
3案から1案を採択
1案は現地に73メートル高のコンクリートダムを築く案、2案目は油圧ジャッキで神殿ごと持ち上げる案、3案目がスウェーデンの企業VBBの提案でブロック切断移設方式でコストも約半分でした。
1963から1964
仮設ダムの建設
神殿の周囲に全長370メートル、高さ25メートルの仮設ダムを築き、日夜3交代制で作業。25台のポンプが1時間あたり75万ガロンの水を排水し、砂岩表面にはエポキシ樹脂を注入して補強しました。
1964から1966
1,036個のブロック
イタリア人石工が手作業でカット。構造上内部ブロックは20トン、ファサードは30トンで制限されました。最初のブロックは1965年5月21日に最後は1966年4月16日に引き上げられ、大きな損傷はありませんでした。
1968
より高い場所と人工丘
神殿は湖から208メートル内陸の高台へ65メートル引き上げられ、コンクリートドームの上に旧跡地の岩30万トンを積んだ人工の丘を造成。1968年9月22日に再公開され、世界遺産制度創設にもつながりました。
アクセスと宿泊
多くの方は最寄都市アスワンから向かいます。道路は約300キロ、砂漠を横切ります。もうひとつはアブシンベル空港(神殿から2キロ)に飛行機で行く方法で、アスワンからは通年便、カイロからは季節便があります。空港は移設作業時の資材仮置き場を転用して建設されており、神殿が分割されて保管されていた土地に着陸することになります。
周囲に大きな街はなく、夕焼けと朝焼けの神殿を2回楽しむために1泊する方や、団体バスが去った後に静かな遺跡を満喫する方もいますが、多くはアスワン泊の日帰り行程です。いずれの場合も現地滞在自体は短く、ファサードや内部を1〜2時間歩いて見学し、ゆっくり余韻を味わっても数時間です。
オンライン環境
エジプトの周遊ルートの中でも最もアクセスが難しい場所で、あらかじめ地図や電子チケットをダウンロードしておくのが重要です。アスワンや道路沿いでは通信可能ですが、現地の電波は弱いため、出発前に全ての予約や連絡、地図の確認を済ませておくことをおすすめします。
通信手段の選択肢はエジプト各地と同じですが、ここではeSIMの利便性が特に高いです。現地SIMの場合はアスワン到着後に店頭で手続きが必要ですし、ローミングも割高です。eSIMは自宅でインストールしておけば、到着時にはすぐ使えます。
どうやって現地へ行きますか?
アスワンに宿泊予定ですか?
夜明け前に出発しても問題ないですか?
アスワン発・早朝の陸路
片道約300キロの砂漠地帯を走ります。早朝出発の利点は到着時の朝日と観光バス前の静けさです。途中で食事処はないため、水と軽食の持参をおすすめします。
朝の便で飛行機利用
空港は神殿から2キロ、アスワンへの定期便とカイロへの季節便あり。長旅も短時間にでき、スケジュールが詰まっている方や長距離バスが苦手な方におすすめです。
まずアスワンへ、それから判断
アスワンに宿泊予定がなければ、まずアスワンへ。神殿観光、ナイル川、ヌビアの村やボート観光等も楽しめ、すべてのオプションはここが拠点です。アスワン現地のホテルロビー等で簡単に手配でき、当日に陸路か空路を決められます。
南へ向かう前に
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アブシンベル神殿はエジプト観光の中で最も行程が長く、しかし見学自体はシンプルな遺跡です。議論の中心は常に神殿そのものより道中です。ぜひ早朝に訪れ、1日をかけて朝の光を楽しむことをおすすめします。ファサードに差す光こそが、この神殿観光の核心です。




